2012年4月11日水曜日

レジュメ


○畑仕事の意味は

 皆さんは食料品売り場で「有機栽培」とか「無農薬」・「低農薬」といった表示を目にしたことがありますか。おそらくほとんどの人が一度は見たことがあると思います。このことからも有機栽培の農産物への需要は高まっているという現状が見られます。しかし農薬や化学肥料を使用せざるを得ない状況の中で、なぜ有機栽培が生まれ、それに対する需要が増えてきたのかという点から考察すれば、様々な疑問が生じてくるでしょう。
 そもそも有機栽培の魅力とは何かと問われたとき、美味い、健康によいというのが大体の意見かと思われますが、その根本にあるのが『土壌にやさしいこと』であるのは前ページに述べてある通りです。
 そこで実際に畑で有機栽培をして土壌環境の変化を調べよう、などといった理屈は抜 きにしてほしいと思います。とりあえず新入生には今まで勉強漬けになった頭を、作物を作ることで癒して頂きたい。家が農家だからといって、畑仕事をすべてこなしたという人は皆無でしょうし、作物を愛情込めて作るのは小学校の時のヘチマ以来だといった人もいるかもしれません。
 また作物を育てることは自分の人間性を磨く上でも大切なことだと思います。それはおかしいと批判される方もいるでしょうが、昨年度のサークルで、モロヘイヤを種蒔きから丹精に育てた甲斐もあり、収穫期になって鬼のように葉をつけたモロヘイヤは不幸にもほとんど食べられず枯れていったというエピソードは、育てた人物の人間性を見る上で非常にシビアに知らせてくれたことは明確でした。

 このサークルの主な活動は例会と畑仕事ですが、この二つでどちらが重要かというのは愚問でしょう。例会でどんなに知識を詰め込んでも経験しないことには分からないことが必ず出てきますし、そこで畑仕事で実践してもらいたいのです。例えるとこの関係は、『焼きそばと紅ショウガ』の関係にあると言えます。紅ショウガは他者を引き立たせる点でこれ以上のものはないという品です。焼きそばに紅ショウガが要らないという方は、ビールのつまみを考えてください。おっと、まだアルコールに慣れていない皆さんには少々理解しにくいかもしれませんが、この関係のすばらしさを知らない人にはいやというほど味わせてあげることでもこのサークルに入ってもらいたいわけであります。

 

○新食糧法の中での有機農業

 ついに日本政府は53年間続けてきた食管法を廃止し、新食糧法を平成7年の11月より施行することに決めた。これによってコメの世界にも市場原理が大幅に導入されることになったのである。
 今まで政府は食管法により農家の希望でコメを全量買い上げることになっていたわけだが、新食糧法では100〜200万トン程のコメしか買い上げないため、農家の希望があっても全量買ってくれるとは限らず、したがって国の手厚い保護に守られてきた農家・農協が危機にさらされるわけである。
 コメの流通過程にも大きな変化が出る。食管法では農協は経済連から全農に通す(系統出荷という)ことで初めてコメを売ることができるのだが、新食糧法では誰が誰にコメを売ってもよいので農協は直接に卸・小売・消費者と コメを売買できるのである。これはコメを自由競争できるものと認めることに等しく、更にはヤミ米の流通を承認することになるため、農家は政府よりヤミ米業者に米を売る傾向が強くなってしまう。 減反政策においても減反が政府による強制だったのが農家による自主判断になることで、あるいは政府が減反しても米を高値で買い上げてくれないことから、農家は作れるだけ作って収入を増やすか、ヤミ米に頼るか、あげくの果てには農家そのものをやめるかといった重大な岐路に立たされている。

 僕は入学してすぐこのサークルに入った。化学肥料や農薬を使用する化学農法を反省し、昔ながらの『安全な』農業ということに興味をもったからである。そしてしばらくして、コメを自由競争化する「新食糧法」を知ってまもなく、この法律をきっかけとして有機農業に目覚めた農家がいることを聞いた。自由競争に負けない魅力あるコメにするためには、有機栽培にするのがよいと考えたそうだ。
 有機農業は1975年前後に農薬による環境汚染や人体被害、食品公害が顕在化したことで始まったものである。しかし、現在では氾濫している「有機栽培」・「低農薬」などといった表示への疑問や不審が増大しているのも事実であり、その生産方法も各地において様々である。しかも農水省でも有機農業に対して明確な基準� �打ち出していない。消費者も『有機農産物』と書いていれさえすればよいといったかんじである。
 若年ながらも有機農業を広めたいと考えている僕は、この基準の曖昧さに不満をもたずにはいられない。いっそのこと、コメのPRに『有機農産物』の看板を掲げるよりも、『安全な米』としたほうがよく分かるんじゃないスか?と思うくらいだ。

 

○土つくりが農業の基本

〜ネギジャガ3年ナス5年〜

有機農業の根本的な概念としては『土にやさしい』農業をすることであるのは新歓パンフにも載っていたけれど、土にやさしくすることはどのようなことを示唆するのか、また化学肥料を使わずに地力を維持するためにはどのような方法があるのかをまとめてみた。

※栽培の目的と地力
 作物を栽培する際には、一定の面積から良質でかつ最大の収穫量を得たい、あるいは一定の面積から最小の労力で最大の収入を得たい、更に毎年収穫量と収入を増やしていきたいという意志が働く。これらが栽培の目的である。しかし、自然土壌を耕地化し作物を栽培すると、耕地の地力は低下するという自然法則があり、栽培の目的とこの自然法則とは相反した関係にある。そこで人類は作物栽培の目的を達成しようとして、地力を維持増進させるためのいろいろな手段を考案してきた。その歴史は非常に長く、これらの手段を簡単に整理すると次のようになる。


金はどれだけ採掘されていますか?

(1)休閑
 作物栽培を何年かに一回休むことにより地力収奪速度をゆるめ、地力の回復を自然にまかせるもので、最も原始的な方法である。
(2)野草の利用
 耕地外の自然の草木を利用するものであり、耕地外の地力を耕地に移転する方法で、家畜または人力を媒介にする方法がある。
(3)牧草の導入
 有機物の補給と土壌構造の改善を牧草の特性に依存した方法で、マメ科牧草の場合は土壌窒素を富化することもできる。
(4)堆肥施用
 初生腐植物質や腐朽物質を人為的につくり、植物遺体の有効な養分を放出しやすくする。
(5)輪作
 作物の種々の特性を利用して、病虫害を抑え、養分の収奪を少なくするなど地力維持の面から合理的で、かつ労力の節約や配分が適切になるように、一定� ��順序で作物を作付けする方法である。 

これらの手段の中で地力維持の中心は堆肥施用と輪作であった。特に堆肥は多くの利点をもった理想に近い手段である。

※地力の定義
 地力とは植物を生産し得る土壌の能力である。この能力は二通りの意味があり、一つは植物生産量が多いか少ないかという能力(生産能力)であり、もう一つは悪条件によく耐えるか耐えないかという能力(抵抗能力)である。人間の体力でいえば、速く走る能力と病気になっても早く回復する能力とが区別されているのと同意である。

※困難になった地力維持
 古来日本ではイネ科作物(麦・ヒエ・粟など)を中心に豆類と根菜との輪作が組まれていた。しかし、近年は食糧の海外依存が強まり、低価格のため麦・サツマイモ・大豆・菜種などの作付けが次々と激減した。畑輪作の中心作物であるイネ科作物やその他の主要作物の作付け減少は日本の畑輪作を根底からくずした。更に、イネ科作物の減少は堆肥生産の減少をもたらし、地力維持を輪作の面でも堆肥生産の面でも困難にしてきた。そして必然的に単作化と多肥化と多農薬化の道をたどることになるのである。

※連作障害
 水稲を除いては、畑作物や果樹などでは連作すると生育や収量が悪くなる連作障害が認められている。しかし、全ての作物が一様に連作障害を起こすのではなく、作物の種類によって害を受ける程度に違いがある(裏面図1,2参照)。連作による減収率は一般に施肥量を減らしたときに大きくなる。また施肥を施用したときには減収がかなりおさえられる事が知られている。昔から、連作障害の原因としては次のようなものがあげられている。

 酸性化・養分欠乏・不均衡
 土壌物理性の悪化
 毒物の集積
 土壌病虫害 

ここで注意しなければいけないことは、畑作の連作障害を農薬で回避することは今のところ不可能に近いということである。地上部に被害の出る病害や虫害は農薬によってある程度は抑えることができる。しかし、地下部から被害を与える病害虫への農薬の使用は極めて危険であり、面倒である。土壌中の病害虫を殺す薬剤は目的外の微生物をも殺してしまうため、散布後の土壌には病原菌が大繁殖することがしばしばある。

※まとめ
 現在のサークルの畑は、小規模ながらも多様の作物生産を行っているため、土壌レベルは低下し、連作障害が起きている可能性がある。対策としては良質の肥料を投与することにほかならない。特に作物の生育と密接な関係にある窒素を土壌に供給するには、アゾトバクターなどの微生物の働きで土壌窒素の回復をはかる方法と施肥があるが、前者は長期の休閑を必要とするため、地力維持方式としては消極的な手段である。
 しかしながら十分に発酵の進んでいない堆肥を施用しても無駄であり、なおかつ切り返し後の堆肥の保存も大切である。例えばこれはある実験結果に基づくものだが、窒素・リン酸・カリが十分に入っている完全堆肥をわずか6時間雨ざらしにした場合、窒素肥料の24%、リン酸肥料の10 %、カリ肥料はなんと80%も雨水とともに流れてしまう。
 有機物肥料はどうしても手間暇かけないと完全な堆肥として使用できないが、その効果として『土壌環境の多様化とバランス維持』は注目せざるをえない。そのためにも堆肥の作り方を重要な問題として取り上げ、実際に作ってみようではないか!

 

○有機農業を斬る

 僕は今、講義で「農薬利用学」を履修している。理由はただ一つ、農薬の悪行を再認識することであった。しかし実際に学んでみると、少しずつではあるが僕の中に疑問が生じてきた。どうやら『美味しんぼ』で磨きあげられた僕の既成概念は現実とは違うところがあるようで、このままではいかんと思い、講師である教授の部屋へ突入したわけである。
 これから書く対話はそのときの会話を記憶をもとに記述したものであり、不明瞭な部分はイメージに依存している。そのため大まかにノンフィクションであることを承知しつつ、会話とナレーションから状況を想定してもらいたい。

 研究室のドアを開け、教授の姿を探す。背中を向け、何やら作業をしていた。弁当を食べていた(突入時刻はPM0:05)。

 私(以下I):すいません、ちょっと質問したいんですけど。
 教授(以下K):ああ、どうぞ座って。
 I:農薬利用学を履修しているんですけど、最近農薬を使わない有機農法が流行ってますけど、どう思いますか。
 K:そもそも有機農法って何だ?

  うまくかわされる。まだ弁当を食べている。この後延々と農業の歴史について質問され、自分がほとんど何も知らないことに気づく。やっと弁当を食べ終わる。
  (中略)

 K:つまり農薬というのは学問によって生み出されたもので、それがないと病虫害が発生して収穫は皆無になってしまうんだ。
 I:でも農薬を使わなくても収穫はできてるようですが。実際僕もサークルの畑で有機農法での収穫を経験しました。
 K:根本的に考えが甘いね。収穫ができたとしても農薬使用時よりはるかに収穫量は低いはずだし、商品作物を作る場合圃場はもっと広いはずだ。そうすれば病害虫発生はより顕著に分かるだろう。また隣地で農薬を使っているからなんとか害がそれほど発生しないということも考えられる。
 I:なるほど。
 K:実際水田に農薬をまかないでみなさい。いもち病が大発生することは(有機農業時代の)歴史が証明している。ただまわりで農薬を使っていれば別だ。
 I:僕は将来無農薬でイネを栽培しようと思ってたんですが。
 K:無理。だとしたら除草はどうする。
 I:手で。
 K:大規模な水田でやったら大変な労力になるだろう(怒)!何日かかると思うんだ。


なぜ我々は重力を使っています

  沈黙。

 K:実際に有機栽培でイネ作りをして、他地域にいもち病を感染させたとして裁判になったこともあるんだ。しかも日本国内で。
 I:講義で農薬は最も安全な薬であると聞きました。決して残留することはなく、農家・消費者にも安全だと。でも僕自身そうですが農薬は危険な物質と思い込んでいる人も多いですね。
 K:マスコミに躍らされているんだ。マスコミも農薬は無害であることを知っていて農薬たたきをしている。農薬を支持しても利益はないから。
 I:そうすると農薬にとっては少しかわいそうですね。
 K:そうでもない。農薬の欠点の一つは高値であることなんだが、少し高くても農家は仕方なく買うしかないんだ。

  人気があると高い技術よりも低コストに走るからだろう。

 I:農家も農薬の安全性は知っているんですか。じゃあ有機栽培はブランド化しても収量が低いので所得は普通の栽培と変わらないでしょう。
 K:むしろ所得は低い。知るところ有機栽培の収量は多いようだが、実は裏で農薬は使っていることが多い。こっそり使っても消費者にはばれるわけがない。
 I:有機栽培は日本が豊かになったからこそ生まれたと言えますね。
 K:将来世界は食糧危機になるのは確実だが、そんなときに収穫量を減らしてまで栽培するやり方は通用するわけがない。食糧供給を確保するため、いかに発展途上国に(高価な)農薬を普及するかが現実の問題だ。

  更に世界情勢と食料戦略について話し続ける。ノッてきたようだ。
  (中略)

 I:話は変わりますが、農薬はすべての生物、特に土壌微生物を死滅させるようなことを聞きました。それについてはどうですか。
 K:昔から単一の生物にのみ反応する農薬が開発されているが、数種の病原に対抗するものはほとんど無い。もしすべての生物に活性を示すものがあるとすれば、それは使用禁止になるし、薬剤師は万病の特効薬を作れるはずだ。
 I:ぼくは有機農業は生産手段として考えてましたが、それがやれないとしても趣味としてやりたいです。
 K:ある意味それは宗教と一緒だ。有機農産物だけを選ぶのは信仰のようなものだし、それは個人の自由だ。ただそれもマスコミに流されていることもあることを忘れないように。
 I:分かりました。有機農法を信仰するためにもう少し科学と� �史を勉強してみます。 

 こうして1時間にも及ぶ対話は幕を閉じた。僕は初めは農薬を安全性の点などから欠点を述べたてて有機農業を教授に認めさせるつもりだったが、その欠点がほとんど間違っていたものであり、逆に自分の無知を広めたかたちに終わった。

 有機農法はガイドラインが認められ、これからどんどん主要な栽培法になるだろうと予測していたが、それは衰退することを理論づけられた。いささか後味悪いけれども、しかしながら僕はやはり有機農法は研究してみたい。それは時代に逆行するかもしれないが、有機農業をすることで歴史を学ぶこともできるし、もしも農薬が通用しなくなったら(これは僕の想像であるが)、自然に頼るしかないからだ。しかし自然は決して人間の味方であるわけでないし、そうした時にどう対処できるかを知る必要もある。
 この対話は僕の敗北(あえてこういう言い方をする)に終わったが、なぜか以前よりやる気が出てしまった。将来の農業を担うものとして、プライドばかり高すぎてもまだまだ僕の知識は歩を動かす程度なんだと痛� �した。うまく駒を進めて王将を手に入れるのが将棋だとすれば、駒はどんな特性をもち、どういう利用法が最適かということを知らなくてはいけない。うまく説明できないけれど、つまりそういうことなのだ。
 僕たちにはまだ学ぶことがたくさんある。ただこのサークルに入ったならば、後輩にばかにされないようにしてほしい。「有機農業は本当によいものなのですか?」なんて聞かれたら、すぐ答えられるわけはないけど、自分の考えだけはもっておこう。それが間違っているとしても、正当化できるだけの『力』があれば、そこに全く新しい概念ができることもあるのだ。そして、それが今の僕であり、農業が1万年続いた根拠なのである。これは、社会の行動規範に自己の判断力が鈍った人にも考えてほしいことである。

 

○地球温暖化による農業への影響を考える

 最近の問題としてよく聞くのが温暖化問題である。しかし「CO2増加のため地球は温暖化する」としか根本的に分かってない人が多い。「する」ではなく「してしまう」なのだ。しかしこれでも危機的状況を伝えるに至らない。
 汗顔の至りであるが、僕は昔温暖化に対してほとんど危機感は持っていなかった。理由は大体の人が考えていることと同じであり、その考えはかなり非社会的であった。とすれば多くの人が非社会的であるとされるのだが、それについては今の論点からずれるので略させていただく。しかしその意味はこの問題への理解が深まるごとに分かるはずだ。
 ここにあるレジュメは僕の現状で知り得るところのものであり、真実はあまりに深い。ただ言えることは、この程度が最低限人として知り得るべ きことだということである。このノートは僕の中で日々ページが増えることだろうし、またこれを見た人にもページが作られることを祈る。

※地球温暖化←CO2、CH4の濃度上昇

 CO2(二酸化炭素)
 温室効果ガスの一種で、赤外線(生物活動のエネルギーや、熱)の宇宙空間への放射を妨げる働きをする。
 CH4(メタン)
 CO2と同じく温室効果ガスの一種。大気中のメタンの約4分の1が牛のげっぷが原因と言われている。最近では水田から出るメタンガスの発生が多いことも指摘されている。

※TOPIC
 ロシアのツンドラ地帯では、氷の下にごく大量の有機物が残留している。温暖化によりその氷が解け、有機物が湿潤な気候の下で微生物により分解されると、大量のメタンガスが大気中に放出され、温暖化を促進、それが微生物活性を更に促進するという悪循環を作り出す。これはもし発生した場合絶対に阻止不可能であるため、ツンドラを破壊しないように(せめて)現在ではCO2削減に力を入れている。

温室効果ガスは他にオゾン、フロン、N2Oがあり、オゾン層を破壊するのはこのうちフロン、N2Oが強力である(他のガスはほとんど影響しない)。
現在のCO2濃度は約360ppm、21世紀には約560ppmに上昇し、その結果1990年よりも平均気温が2℃位上がる。


なぜ、雲はどのように形成さですか?

※農業への影響
 気候の変化(夏の乾燥など)による農地の減少または減収。漁業や牧畜も同様。
 例:世界の主要な穀物生産において、CO2が2倍に増えると収量は約46%減る。(IPCC調べ)
 例:気温が4℃上がった場合、日本国内で米の生産が上がる地域は青森、秋田、岩手、宮城、福島、東京のみである。

1.CO2濃度を上昇させる原因

 化石燃料の消費や、熱帯林を中心とした森林の伐採(1100〜2000万ha/年)
 特に後者の場合、炭素の貯蔵庫である森林がなくなり、伐採のため林床の多量の有機物は分解され、CO2として大気に放出されてしまう。
 計算によれば、地球上で発生したCO2の約半分が陸上生物の光合成によって固定されたり、海洋に吸収され、残り半分が大気に蓄積する。しかし将来的に海洋による吸収増は見込めない。

2.CO2濃度上昇の長所と短所

「一般論として、植物はCO2濃度上昇に歓迎的である」

 ある実験では、CO2濃度を現在の2倍に高めることで稲の収量は30〜70%増加したが、その際空気の温度はある程度高い方がよかった。ただし、作物生産を考慮した場合、それほど単純に収量増加は期待できない。その理由は、生産力増強にはそれに見合った無機養分と水分の補給が必要であること、高CO2濃度により増大した光合成産物が作物体の収穫部分にうまく配分されるか分からないことがある。このため作物の改良や新しい栽培技術の開発の必要が迫られる。
 実際には雨・日射・無機養分・病虫害などの影響が複雑に絡み合い、さらに汚染ガス濃度の上昇が伴う可能性もあるため、多くの要因を考慮した『実験的予測』の結果に基づいた対策をたてる必要がある。

※TOPIC-RiceFACE(Free-Air CO2 Enrichment)

 炭酸ガスの水稲影響野外研究施設の名称。東北農試などが共同で岩手県雫石町に施設を設け、H9.8.21に開所した。地球環境の変化を先取りする形で稲と周辺の生態系問題を調べる。研究者も多数の分野から参加しており、当大学からも教授が介入している。来春から研究は本格的に行われ、注目されている。

直接影響
 光合成活動の活発化
 蒸散水損失の抑制-作物の乾物生産力増大
 栽培可能期間延長微生物のN固定力の増大
 気温上昇-積雪期間短縮土壌養分の有効化促進
 冬の厳しさ緩和 作物栽培可能域の変化
間接影響
 栽培北限、南限の移動雑草繁茂の促進
 降水状態の変化害虫の大発生促進負
 水分条件変化 空中湿度の変化農薬・肥料の無効化促進
 蒸発強度の増大-干ばつ発生の激化
 土壌水分の変化地力損耗の促進

3.CO2濃度の急上昇を防ぐために

対処法は様々で、次元が違い、順位もつけられないが、解決すべき問題としては次の方法がある。
 森林を大規模に育成すること、それをなるべく用材として使用しない
 光合成能力の高い農作物を開発し、かつ栽培技術を改善して単位土地面積当たりの収量を飛躍的に高める
 何らかの方法で化石燃料の使用を制限し、地球環境にとってクリーンな代替エネルギー源を求め、かつ熱機関の効率を高める
 高い経済成長は望まない
 人口増加を抑制する
 少なくとも日本はODA(政府開発援助)の使い方を誤らない

今後望まれるのは、国際的合意に基づく種々の施策を積極的に講じ、地球上の水や炭素の循環を制御することである。そのためには、人類も自然の一部であるとの認識に立ち、環境倫理を確立することが求められている。

※最後に

 僕は図書館に行き、温暖化問題と農業への影響についての書物を探したが、予想以上に求めている著書は少なかった。これは実に環境問題への認識の薄さを示しているにほかならない。更に思ったのが数々の問題に対するまとめとして、「〜について注意する必要がある。」で終わるのが多いということである。確かに対策は主として現代経済に歯止めをかけることとはいえ、書物でさえマスコミの言いなりになっているのはどうかと思った。
 今、温暖化防止会議が京都で開かれている。難航は必須だが(もちろんであろう。北国では暖房が必需だし、南国では焼畑が今も主流なのだ)、この会議に僕たちの将来がいささかなりともかかっていることを考えると注目せざるを得ない。ただし、会議がどうなろうと、自分たちの小� �なことからでも(将来的に)会議がまとまりやすくなることは覚えていてほしい。生ゴミは土に還したり、リサイクルに積極的になることなど、「ちりも積もれば」といった対策は数多い。しかしこの僕でさえ矛盾していることも多く、気分次第でドライブするし、腐ったリンゴは可燃ゴミに出すこともある。ただ、J.F.ケネディの言葉で『国民は自尊心、勇気、判断力をもち、そして国への献身が必要である。』というのがある。そういうことを考えると、スチロールを貯めている自分がちょっぴり誇らしく思える。もっとも射殺されることはあり得ないのだから。

 

○That's AKITAJIN

 僕が生まれ育った秋田は、実に良いところだ。それは決して田舎的な環境に恵まれていることだけではなく、そこに息づいている何か―が、僕に共鳴するからだと思う。 僕が図書館で偶然見つけた本の中に、東北の人間形成、そこに生まれた気質や信仰を記述していたものがあった。そこに書かれていた興味あることを、これから秋田における事柄のみを要約して述べてみることにする。

秋田人気質

 交通の不便さ〜これは秋田県が背負った宿命だ。東・南・北の三方を1000m級の山地で閉ざされ、西は日本海。奈良、平安の昔から"陸の孤島"だった。交通機関や電化工事もいつも一番後に開発されていることは歴史に裏付けされているし、現在での秋田新幹線もこれに証明される。
 交通機関の遅れとともに、年間100日以上も雪が降るという厳しい気象条件も秋田人気質を語るのに欠かせない因子である。

 ・秋田人は物事になかなか決断がつかず、とりかかるまで大変だが、いったん重い腰を上げると粘り抜く。
 ・仲間意識が非常に強く封鎖的である。


 といった県民性があるが、秋田人が無類のお人よしで"お坊っちゃん"的なことや、派手で見えっ張りであることに注目する。
 雇用の点から言うと、秋田人は出稼ぎのときに低賃金でも文句を言わず働くため、他県人は「おとなしい、粘り強い」と評価するが、雇用者にとっては使いやすいだけのことなのである。また、大部分が農家なので個人主義者が多く、隣が機械を買ったら負けずに後を追い、共同購入はしないという。出稼ぎの理由は生活苦ではなく、農機具代金の返済であるという調べがあるのも面白い。
 秋田は雪深く、農業は不適と思われがちだが、夏の気候が温暖なため米に関する限りは好適地なのである。米の被害に冷害があるが、秋田は北東風(やませ)を奥羽山脈でさえぎり、暖流からの暖風に助けら れている。過去の大冷害のときにも、秋田の米の減収率は最下位となっている。
 このように米作りが楽で豊かだったため、楽天的で"坊ちゃん"的な性格を培ったようだ。しかし米に恵まれすぎているため生活を向上させる工夫をしないという欠点もある。

☆秋田美人の由来

 秋田音頭にもあるように、秋田の人達は小野小町こそが秋田美人の代表と思っているが、歴史学者はこれには否定的で、小町の故郷は全国いたるところにあり、秋田美人説は荒唐無稽と一蹴するが、秋田の人には捨てがたいロマンであろう。
 ところで『秋田美人』という言葉は極めて抽象的であるため、その特徴を見てみよう。まず第一に色の白さである。比色計による白色度は日本人の平均22.6%に対し、秋田人は29.6%である。黄色人種よりもむしろ白人に近い白さで、しかもただ白いだけでなく、つやがあり、ほんのり桜色を帯びた白さなのである。第二に大きくて黒い瞳である。目は一般に大きく、そのため顔は丸型になり、二重まぶたも全体の6割以上を占める。
 次に秋田の風土から見た美人形成の重要 な条件を述べる。豪雪地帯、低温多湿、少ない日照時間といった自然条件が白い肌を作っているのは間違いない。寒いために発汗量が少なく、毛穴も退化して肌を滑らかにし、湿度の高い空気がそれを常に湿り気で守っているため、モチ肌が生まれる。
 しかし、このような自然条件は日本海側の雪国の共通現象である。そこで土壌条件、主に水系に注目してみると、驚くべき事実が分かった(TVならここでCMが入る)。秋田県内の銘酒産地は"美人どころ"と符合、雄物川水域に多い。玉川などを支流とする雄物川はpH度が低く、酸性なのである。酸性の水は白く滑らかな肌を作る。すなわち、酸性河川が美人を生み出したと指摘されよう。

 秋田女性の性格は忍従型、奉仕型であるという。しかし、優しいばかりでなく、情熱家でシンの強い女性も多い。

 このようなことが秋田美人と呼ばれるようになった要因であるが、将来秋田美人はいなくなると思われる。というのは、いすを使う生活が足を長くするように、安定した文化生活が美人を生む。また遺伝学的にも美人の要素は優性遺伝が多く、世代毎に美しくなる。交通の発達で秋田人の県外流出はおびただしく、『秋田美人』の寿命が危ぶまれる。

 僕は秋田に愛着をもっている。これは恥ずべきことではない。自分の生まれた(又は育った)土地には、思い出が風景とともに映し出され、その人への精神的な支えとなることがある。過去の栄光が現在の存在理由にもなり得るからだ。
 これに関して言うならば、現在の政治にも鋭いメスが入る。損得ばかり気にする政治家、日本を愛していない政治家に何ができるのか。できる訳がないのだ。自分たちは日本に生まれ、そこに自身の存在理由があると気づいたとき、人はやるべきことを発見するのだと思う。少し評論家ぶってしまい、汗顔の至りであるが、たまにこういうのもあっていいでしょう。

 

○農業の法則

 大抵の物事には法則というものが存在する。文法を知らなければうまく会話ができないし、乗算を知らなければ加算だけで計算するしかない。人は法則を発見し、うまく利用することで文化の発達につながるのだ。
 農業も例外ではない。生産面はもちろん、経済面でも様々な法則があり、農学の研究に寄与している。私が最も農業の法則として印象に残っているのが「ぺティの法則」である。

 「経済の成長とともに、国民経済における農業の相対的地位はますます小さくなる」

 戦後の日本農業のあゆみは、この法則に少なからずあてはまるだろう。経済成長の縁の下を支えたのは食糧の安定供給であり、つまりは第一次産業であった。食糧対策として政府が行った農業優遇制度は間違ってはいない。しかし経済的に豊かになり、日本農業は敬遠されるようになった。農業技術の進歩によって生産性は向上したが、他国から農産物を輸入することが金銭的にも外交的にも正当化され、就農者の高齢化と後継者不足、そして何よりも国産需要の低下に伴って確実に日本農業の地位は低くなった。
 もちろん直ちに農産物輸入を廃止せよということではない。問題なのは所得安定化による労働生産性の向上なのである。官民の間に信頼性がほとんどない現在では実現には努力と時間を要するかもしれないが、� �府は政府、農家は農家のやり方で農業を支えていくしかないのではないか。政府は農産物の価格支持政策だけでなく、農業労働意欲を向上させてくれる施策を講じ、それを非農家の理解とともに実現させるべきである。農家のみを対象とした優遇制度は逆に他産業との溝を深めるだけである。そして農家は地域的な組織化による企業的な経営感覚を身につけなくてはならない。どんぶり勘定の家族的経営は自給自足の「百姓」であり、農家は政府にすがろうとする他力本願的な概念を捨てることが大切なのだ。そして後継者に農業は面白いと思わせるような経営を忘れてはいけない。
 この構想は政府と農家の信頼性をなくすものではない。二人三脚でゴールを目指すことではなく、走る範囲を分けたリレー方式であり、一層の官民一� ��感が強まるのではないかと考えている。
 余談だが、景気低迷が続く現在において農家の消費拡大こそが一番の回復策だと私は新「法則」として提案する。前述の戦後経済成長時には農家の高所得が作業機械や工業製品の消費拡大に貢献していたことが明確である。農家の地位が向上し、労働意欲や所得の向上が実現された時、農業だけではなく日本全体の将来が明るくなると思うのは私だけであろうか。



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